石塔、金製耳飾り、仏像、白磁、古代の土器。
博物館の展示ケースに並ぶ文化財が、人間サイズの衣装となってレッドカーペットに登場するイベントが韓国で注目を集めています。
そのイベントが、ソウルの国立中央博物館で開催される「国中博扮装遊び(국중박 분장놀이)」です。
参加者が表現するのは、アニメやゲームのキャラクターではありません。国立博物館が所蔵する韓国の文化財です。
文化財の形や色を衣装で再現するだけでなく、動き、表情、ダンス、ユーモアを加えたパフォーマンスによって、何百年も前の文化財を現代によみがえらせます。
2024年に始まったこのイベントは、SNSで大きな話題となり、2026年には韓国全国の国立博物館が参加する規模へと成長しました。
「国中博」とは?
「国中博」は、韓国語の国立中央博物館(국립중앙박물관)を短くした愛称です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 国立中央博物館 |
| 韓国語 | 국립중앙박물관 |
| 略称 | 국중박 |
| 読み方 | クッチュンバク |
| 英語名 | National Museum of Korea |
| 所在地 | ソウル特別市龍山区 |
韓国では、長い施設名や団体名の一部を組み合わせ、親しみやすい略称で呼ぶことがあります。
「국중박」もその一つです。
若い世代がSNSや日常会話でこの名称を使うようになったことで、国立中央博物館は「歴史を勉強する難しい場所」から、気軽に訪れて文化を楽しめる場所へとイメージを広げています。

「国中博扮装遊び」とは?
「国中博扮装遊び」は、国立博物館が所蔵する文化財を、衣装やパフォーマンスで表現するイベントです。
参加者は自分が表現したい文化財を選び、次のような方法で再解釈します。
- 文化財の形を衣装として再現する
- 色や模様をメイクに取り入れる
- 素材の質感を布や紙、発泡素材などで表現する
- 文化財の用途や物語をパフォーマンスにする
- 複数人で一つの文化財を表現する
- 歴史的な特徴に現代的なユーモアを加える
単純に本物とそっくりな衣装を作ればよいわけではありません。
文化財をどのように観察し、どの特徴に注目し、それを自分だけの方法で表現するかが重要になります。

2024年|「国中博が生きている」から始まった
最初のイベントは、2024年10月6日に国立中央博物館で開催された「国中博集会」のプログラムとして行われました。
イベント名は、「国中博が生きている(국중박이 살아있다)」。
事前審査を通過した20チームがレッドカーペットを歩き、それぞれの文化財コスプレを披露しました。
モチーフとして選ばれたのは、百済金銅大香炉、金弘道の風俗画『シルム』、石塔、仏像など、国立中央博物館を代表する文化財でした。
2024年の大賞は「敬天寺跡十層石塔」
2024年の大賞を受賞したのは、イ・ウンミさんが表現した「開城・敬天寺跡十層石塔」です。
この石塔は、高麗時代の1348年に建てられたとされる大理石製の塔で、現在は国立中央博物館の中央空間「歴史の道」に展示されています。
イ・ウンミさんは、石塔の複雑な輪郭や細かな彫刻を、白いフリルや立体的な装飾によって表現しました。
巨大な石塔を人間が着られる衣装へ変換した発想と、細部まで作り込まれた完成度が注目を集めました。

2025年|巨大な金製耳飾りがSNSで話題に
2025年には、イベント名が現在の「国中博扮装遊び」へ変更され、独立したイベントとして開催されました。
参加者がInstagramなどで衣装の制作過程を公開したこともあり、イベントはSNSを中心に大きな注目を集めます。
この年には、次のような文化財がコスプレとして登場しました。
- 慶州・皇吾洞の金製耳飾り
- 新羅・瑞鳳塚の金冠
- 高麗時代の金銅観音菩薩坐像
- 虎とカササギを描いた民画
- 石造薬師如来坐像
2025年の大賞は「耳にかければ耳飾り」
大賞を受賞したのは、慶州・皇吾洞から出土した金製耳飾りを再現したチームです。
チーム名は、韓国語の言葉遊びを取り入れた「耳にかければ耳飾り(귀에 걸면 귀걸이)」。
2人の参加者が左右一対の巨大な耳飾りとなり、全身を金色に包んでレッドカーペットに登場しました。
参加した2人は、気泡緩衝材や金色のスプレーなどを使い、約10日間かけて衣装を制作したと伝えられています。
完成度の高さだけでなく、文化財そのものが歩いているようなユーモラスな姿が話題になり、テレビ番組にも出演しました。
その結果、コスプレだけではなく、モデルとなった本物の金製耳飾りにも関心が集まりました。

2026年|韓国全国の国立博物館へ拡大
2026年の「国中博扮装遊び」は、国立中央博物館だけのイベントから、全国規模の文化イベントへと発展しました。
この年は、韓国全国にある14の国立博物館が参加しました。
地域本選は次の4か所で開催されました。
- 国立春川博物館
- 国立公州博物館
- 国立大邱博物館
- 国立全州博物館
各地域で本選を行い、選ばれた参加者が9月19日にソウルの国立中央博物館で行われた決選へ進みました。
決選では、25チームが文化財をテーマにした衣装とパフォーマンスを披露しました。
2026年には、次のような多様な文化財が登場しています。
- 騎馬人物形土器
- 顔文様の軒丸瓦
- 磨製石剣
- 仏教経典
- 朝鮮時代の白磁
- 各地域の国立博物館が所蔵する文化財
ソウルの有名な文化財だけでなく、韓国各地の博物館が所蔵する文化財にも注目が集まったことが、2026年大会の大きな特徴です。

2026年の大賞は「白磁の鯉形水滴」
2026年の大賞を受賞したのは、大学生のチョン・ウンスルさんが表現した「白磁の鯉形水滴」です。
水滴とは、書道で墨をするとき、硯に水を注ぐために使われる道具です。
モデルとなった文化財は、白磁で作られた鯉の姿をしています。
水の流れを表す青い模様や、鯉が水面から飛び上がるような躍動感が特徴です。
チョン・ウンスルさんは、頭や手足を青く、体を白く表現し、衣装に魚の鱗を描きました。
さらに床に横たわり、足先を鯉の尾のように動かすことで、水から跳び上がる魚の姿を表現しました。
会場では、文化財の特徴を身体全体で表現したユーモラスな動きに笑いと拍手が起こりました。
大賞をきっかけに実物も公開
国立中央博物館は大会後、大賞作品のモチーフとなった「白磁の鯉形水滴」の実物を公開しました。
公開期間は、2026年9月23日から10月22日まで。
国立中央博物館の常設展示館3階にある粉青沙器・白磁室で、コスプレのモデルとなった実際の文化財を見ることができます。
イベントで注目された作品をすぐに展示へつなげたことで、観客はコスプレと本物の文化財を比較して楽しめるようになりました。

なぜ「国中博扮装遊び」は人気なのか
1. 文化財を難しいものにしない
博物館の文化財には、専門的な名称や歴史的な説明が付いています。
歴史に詳しくない人にとっては、どこを見ればよいのか分からないこともあります。
しかし、文化財が巨大な衣装となって動き出すと、形、色、模様、用途などの特徴が分かりやすくなります。
まず衣装のおもしろさから興味を持ち、その後で文化財の名前や歴史を調べるという流れが生まれます。
2. 観察力と創造力の両方を楽しめる
衣装を作るには、文化財を細かく観察しなければなりません。
参加者は次のような点を調べ、表現方法を考えます。
- どのような形をしているか
- 何色が使われているか
- 何のために作られたのか
- どの時代の文化財なのか
- どの部分が最も特徴的なのか
- 衣装にすると、どのように見えるのか
歴史の知識だけでなく、ファッション、造形、演技、ダンスなど、さまざまな創造力を発揮できるイベントです。
3. 真剣さとユーモアが共存している
参加者の衣装は、時間をかけて細かく作られています。
一方で、巨大な耳飾りが歩いたり、白磁の鯉が床で跳ねたりする姿には、自然なユーモアがあります。
文化財を軽く扱うのではなく、真剣に観察して作ったからこそ生まれるおもしろさが、多くの人を引き付けています。
4. SNSの短い動画でも魅力が伝わる
石塔、金冠、耳飾り、魚形の水滴などを再現した衣装は、一枚の写真でも強い印象を残します。
さらにランウェイやパフォーマンスは、TikTok、Instagram Reels、YouTube Shortsなどの短い動画とも相性がよく、博物館へ行ったことがない人にも広がります。
5. コスプレから本物の文化財へ関心が移る
「国中博扮装遊び」の重要な点は、衣装だけで終わらないことです。
印象的な作品を見た人は、モチーフとなった文化財を検索します。
そして、文化財の歴史や用途を調べたり、実物を見るために博物館を訪れたりします。
娯楽としてのコスプレが、文化財への入口として機能しているのです。
若い世代と博物館の距離を縮めたイベント
国立中央博物館は、「博物館を難しく考える若い世代が、気軽に訪れられる集まりの場所にしたい」という目的で最初のイベントを企画しました。
その後、国立中央博物館では文化財を身近に楽しむさまざまな取り組みが注目されています。
- 国中博扮装遊び
- 没入型デジタル展示
- SNSを活用した情報発信
- 夜間開館や文化イベント
- 現代的な展示デザイン
- 文化財をモチーフにした뮷즈(MU)
こうした取り組みによって、博物館は「静かに展示を見る場所」だけではなくなりました。
文化財を見て、写真を撮り、商品を選び、自分なりに再解釈し、他の人と共有する文化空間へと変化しています。

文化財を「保存する」から「一緒に楽しむ」へ
博物館の重要な役割は、文化財を安全に保存し、研究し、次の世代へ伝えることです。
しかし、保存されているだけでは、文化財と現代の人々との距離は縮まりません。
「国中博扮装遊び」は、文化財を傷つけることなく、その形や物語を現代の衣装と身体表現へ移し替えました。
参加者は文化財を一方的に学ぶだけではなく、自分の創造力を加えて新しい見方を提示します。
観客も、その作品を見ながら「元の文化財はどのようなものだろう」と考えます。
このイベントでは、博物館、参加者、観客が一緒になって文化財の楽しみ方を作っているのです。
K-カルチャーの新しい形として見る
K-カルチャーというと、K-POP、韓国ドラマ、映画、ウェブトゥーン、ファッション、ビューティーなどを思い浮かべる人が多いでしょう。
しかし、その背景には韓国の歴史、伝統美術、衣装、文様、工芸があります。
「国中博扮装遊び」は、伝統文化と現代の若者文化が出会うイベントです。
- 古代の装身具が現代ファッションになる
- 石塔がドレスのシルエットになる
- 陶磁器の模様がメイクになる
- 小さな文房具が全身パフォーマンスになる
- 博物館の展示品がSNSコンテンツになる
過去の文化をそのまま保存するだけでなく、現代の感覚で再解釈することも、現在のK-カルチャーを理解する重要な視点です。
まとめ
「国中博扮装遊び」は、国立博物館が所蔵する文化財を衣装やパフォーマンスで再現する韓国のイベントです。
2024年に国立中央博物館の小さな企画として始まり、2025年にはSNSやテレビで話題となり、2026年には全国14の国立博物館が参加する規模へと拡大しました。
歴代の大賞作品には、次の文化財が選ばれています。
| 年 | 大賞作品のモチーフ |
|---|---|
| 2024年 | 開城・敬天寺跡十層石塔 |
| 2025年 | 慶州・皇吾洞の金製耳飾り |
| 2026年 | 白磁の鯉形水滴 |
このイベントの魅力は、衣装の完成度やユーモアだけではありません。
参加者が文化財を細かく観察し、自分なりの表現を加え、観客が元の文化財に関心を持つという新しい文化体験を生み出しています。
「文化財は静かに見るもの」というイメージを越え、歴史と現代の人々をつないだことが、「国中博扮装遊び」が支持される大きな理由でしょう。
FAQ
Q1. 「国中博」とは何ですか?
韓国の国立中央博物館を意味する略称「국중박」です。
韓国語では「クッチュンバク」に近い発音です。
Q2. 「国中博扮装遊び」は普通のコスプレ大会ですか?
一般的なアニメやゲームのコスプレ大会とは異なります。
国立博物館が所蔵する文化財を衣装やパフォーマンスで表現するイベントです。
Q3. どの文化財でもモチーフにできますか?
募集年によって条件が異なりますが、国立博物館が所蔵する文化財から選び、創造的に再解釈して応募します。
Q4. 個人だけでなくチームでも参加できますか?
2026年の募集では、個人または最大4人までのチームが参加対象となりました。今後の条件は、その年の公式募集案内をご確認ください。
Q5. イベントは毎年開催されますか?
2024年、2025年、2026年と3年連続で開催されました。次回の日程や開催方法については、国立中央博物館の公式発表をご確認ください。
Q6. 参加しなくても観覧できますか?
イベントは一般の観客も楽しめる形で開催されています。ただし、会場、観覧方法、事前申請の必要性は開催年によって変更される可能性があります。


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